デザインの解剖展の何がすごかったって展示レイアウトがソーシャルメディア設計になっていてものすごかったって話

優れた展覧会で集客するにはセルフィー対策が必須ということ

いしたにまさき
9 min readJan 26, 2017

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六本木のミッドタウンにある21_21 DESIGN SIGHTで開催された「デザインの解剖展」がめでたく閉幕しました。

私は最終日近辺は来場がヤバい人数になるぞと思って、その前の週に行ったのですが、それでも開場とほぼ同時だったのに軽く並びました。

で、最終日はやはりそれ以上の長蛇の列になっていたみたいで、この点展覧会としては大成功と言っていいのではないかと思います。

でだ、この「デザインの解剖展」。

まさにデザインの解剖でそこら辺にある日用品1つでも、デザインの1つの1つの要素をひも解いていくと、そこにはすさまじい数のデザインが隠れているという内容でした。

なので、実は画像とか立体とかインタラクティブ展示が目立つのですが、この点の展覧会にしてはめずらしくすさまじいテキスト量の展覧会でもありました。

あのテキスト群を全部読みこなした人、どれだけいたんでしょうかと心配になるほどで、そら図録も欲しくなります。

ただ、なぜこの「デザインの解剖展」が集客に成功したのかというと、なにをどうやっても写真映えするオブジェクトを配置というシーディング設計がちゃんとされていて、かつその写真がソーシャルメディアに流れるバズの設計もされていたという二段階の展覧会のソーシャルメディア設計がしっかりしていたからなんだと思っています。

シーディングだけでもバズだけでもソーシャルメディアでは成功しません。両方の要素が入っていないと写真は勝手に流通してくれないんですよね。このデザインの解剖展の全体設計をされた方は、そのソーシャルメディアの勘所を実によくわかってらっしゃいます。

ホントにとても感心したので、ちょっと細かく説明していきます。

まず、大前提としてデザインの解剖展は基本写真OKです。NGのところ、たしかありましたけど、基本OKです。これがまた超大事。

ここだけOKとここだけNGでは写真を撮る気持ちがぜんぜん変わってしまうんです。普通の人が写真を撮る心理というのはそういうものなので、写真・カメラ好きの人たちとはぜんぜん違う真逆であることを覚えておいてください。

その上で、デザインの解剖展には、うっかり写真を撮りたくなってしまうオブジェクトがごろごろ転がっています。

写ルンですの断面立体、しかも巨大。

きのこの山の断面立体、しかも巨大。

おいしい牛乳の立体、しかも巨大。

巨大なオブジェクトというのは、それだけで太陽の塔とかを持ち出すまでもなく、パワーを持っています。だから、そこに人(の目)は吸い寄せられ、スマホで写真を撮りたくなります。

ここまでがソーシャルメディア 設計のシーディングの部分です。最初に基本写真OKと書きましたが、それだけではシーディングとしては不十分です。

撮りたくてたまらない物体がそこに並んでいた上での撮影OKだから、シーディングとして機能しているのです。

つまり「よろしければ撮影してください」ではなくて「ほらほら、ぼっちゃんおじょうちゃん、写真撮りたくて仕方がないだろ」というところまで、熱量を高めないとシーディングとは言えないということなのです。

ところが、ソーシャルメディアの設計、特に写真が勝手に流通していくということを考えると、こんなことだけでうまくいくわけがないです。

さらにバズの設計が必要です。でも、それは別に広告だせとかキャンペーンが必要とかそういうことではありません。

シーディングの結果撮影された写真がソーシャルメディアに流れていきやすい写真に自動的にレイアウトされるようにこのデザインの解剖展の会場は設計されているのです。

展覧会の設計では展示の設計だけではなくて、展示の設計をすることで、人の導線設計をすることでもあるわけです。

デザインの解剖展のレイアウト図を見てみましょう。

この図だけだとわかりにくいのですが、矢印に沿って来場者は展覧会の内部を移動しています。

この時、展示は基本右にならんでいます。なので、人の顔も同じように矢印の右側を向いています

ということは、巨大オブジェクト周辺にいる人たちは、基本巨大オブジェクトに対して背中を向けています。もうね、ここがホントにすごかった。

巨大オブジェクトに背中を向けているということは、巨大オブジェクトを撮影したい人にとっては、余計な顔が写真に入り込んでこないということなんです。

そして、今どきこんな巨大なオブジェクトを発見したら、スマホで撮るのは自撮り=セルフィーです。

これでわかりますよね。

巨大なオブジェクトで自撮りするとき、自分たちの顔以外の顔は基本邪魔です。でも、この展覧会レイアウトのおかげで、かなりの人が会場にいても、自撮り写真に入ってくるのは他人の背中だけなんです。

ここがもうこのデザインの解剖展のすごさで、展覧会の展示レイアウトがきっちりセルフィー対策されているんです。

このレイアウトであれば、自分たち以外の余計な顔が入り込む心配は相当減りますから、安心してソーシャルメディアに写真を投稿することができます。

この自撮り写真の内容に対する安心感がバスを生み出すわけです。

実際、小一時間会場にいただけでも何人もの人が自撮りしてましたし、こんなおもしろい巨大オブジェクトがいくつもありますから、知らず知らずのうちに自撮り特訓道場みたいにもなっているんです。

だから、当たり前のようにデザインの解剖展に関する写真の質は上がります。だって現場が何度も撮影して写真を工夫することを誘発するレイアウトになっているんですから。

いい写真は人を感心させますが、いい笑顔は人を集めます。

私がデザインの解剖展のことを知ったのも、そういったソーシャルメディアでの写真投稿がきっかけでしたし、しかもそんなすてきな写真が何枚も流れてくるから、デザインの解剖展を忘れようがないわけです。

空間を設計することが二段階のソーシャルメディア設計になっているという点で、このデザインの解剖展はすばらしいものでしたし、しかもその設計にひとつも無理がない。

これは空間そのものを完全にコントロールできる展覧会というものの特性を見事に生かしたまたとない事例だったと思います。

いやあ、年始早々にホントにいいものを体験させていただきました。ありがとうございました。

さてさて。

こういういい展覧会にくると、そりゃ展覧会でのショップでなにか買っていこうという気分になるのですが、そこでいい再会が個人的にありました。

プロダクトデザイナーの清水久和さんの代表作であるアルミ製で永久に使えるアイスクリームスプーンです。

http://sandodesign.com/

清水さんとは、私が雑誌LiVESで記事を書いていた頃(約10年前だ)お会いして、このアイスクリームスプーンのデザインや開発の話をずいぶんお話していただきました。この清水さんのアイスクリームスプーンの開発の話、すごい面白いんですよ。

当時はまだSABO STUDIO名義でした。

私は、今うっかりカバンのデザインなんてしているのですが、そのデザインの際に清水さんから聞いた話が、実は血肉となっているんですよね。

ということで、デザインの展覧会の設計で感心しまくって、外に出てくると自分のデザインの原点というべき商品と再会して、この日はホント最高の日でしたね。うっかりアイスクリームスプーン2本も買ってしまいましたよ。

そういえば、グッドデザインに対するデザインということを言いだしたのも清水さんだ。

うーん、清水さんに会いたいな。実は相当影響受けていることに、今気づいたぞ。

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ブロガー、ライター、広報・マーケティングアドバイザー、プロダクトデザイナー。2011年アルファブロガー・アワード受賞。ひらくPCバッグシリーズのデザインにて、2016年グッドデザイン賞受賞。著作 → http://amzn.to/qGzqgt